千葉ロッテマリーンズの「死刑」横断幕騒動をめぐり、横断幕で意見を主張するルーツを考える…と いう記事で、世界各国のサッカー文化に詳しいフリーアナウンサーの倉敷保雄さんにお話をうかがう 機会がありました。 1993年のJリーグ誕生以来、クラブは企業名より地域名を押し出し、「チームはサポーターのもの」 という“前提”ができた。サポーターはレプリカユニホームを着て「チームのために、一緒に戦う」 感覚を持つようになり、そしてその感覚が「スポーツ観戦の楽しみ方」として他のスポーツにも広がっ てきた…というご指摘でした。 ロッテの応援に詳しい関係者によると、90年代半ばに、浦和や東京ガス（FC東京の前身）が好きなロッ テファンが「サッカー応援の一体感を取り入れたい」と意識的にあのスタイルを築いたとのこと。レ プリカユニホームやチームカラーに合わせた服装がプロ野球の他チームに広まっていったのも、そう した「楽しみ方の伝播」といえるでしょう。 さて横断幕、ゲーフラ（ゲートフラッグ）、メッセージボードは、野球では選手名を掲げるシンプル なものばかりですが、サッカーでは経営方針に意見するもの、皮肉やユーモアを効かせたものなど多 種多様。自由な言論というか、サポーターがジョークをジョークとして楽しむ余裕もあります。バリ エーションの広さでは、世界でもトップクラスではないでしょうか。 面白いなと思ったのは、2004年に東京ヴェルディでＪリーグ最年少15歳デビューを飾った森本貴幸選 手（現カターニャ）に対して、対戦相手のＦＣ東京サポーターが掲げた横断幕。「お前、何中だよ!?」 と中学生同士のケンカを思わせる言葉で、周囲の笑いを誘っていました。 東京サポは磐田ＧＫ川口能活選手がミスったりすると「ありがとヨシカツ！」とコールするのが恒例 になっていて、あれも笑ってしまいます。別バージョンは「おれたちーのヨシカツ！」「ハムカツ！ 串カツ！」等。川口選手もその雰囲気をわかっていて、いちいち手を挙げて応えてくれたり。さらに スポーツニュースで「川口選手に温かい声援が…」と見当違いな取り上げ方をされたりして、そのへ んまで含めて、サッカーの面白さの一側面かな、と。 倉敷さんは「東京もそうですが、柏の応援もとてもいかしてます。いつも笑わされていますよ」との こと。「今年の開幕戦で、パチンコ屋の開店時みたいな花輪があって、贈り主がひとつは『ブリトニー ・スピアーズ』。もうひとつは『献金ではなく献花 西松建設』だったんですよ（笑）」。時事ネタ をからめるセンス、見事です。 しかし、ユーモアというより悪意が度を過ぎて、誹謗中傷になってしまうこともあります。2004年に 浦和の親会社である三菱自動車のリコール隠しが発覚したとき、名古屋vs浦和戦で、一部の名古屋サ ポーターが「世界のトヨタへようこそ」「まだあるだろ!!」という横断幕を掲げました。これを受け て名古屋は３人に試合入場禁止などの処分を下しました。 今回のロッテの騒動でも、フロント批判派のサポーターはチームのためによかれと思って、春先から さまざまなゲーフラを掲げていた（その中には、Jリーグで見られるような、皮肉やジョークを狙っ たものがけっこうありました）のでしょうが、それがユーモアを通り越してマズい領域までいってし まった…という印象があります。 倉敷さんは「死刑という言葉が良くなかった。違う形でアピールするべきだったと思います。ユーモ アやウィットがまだ十分なレベルにいっていなかったのかもしれません」と嘆きつつ、「誰が悪いか はわかりませんが、騒いだファンも、批判したファンも、野球やマリーンズから離れてほしくない。 愛情がねじれた形になってしまったけれど、本当は誰もが『マリーンズのために』と思っていたはず です」と話していました。 騒動を起こした一部サポーターは「来年はスタンドに来ない」旨を宣言している様子です。でも、＜ 「死刑」横断幕、さらに翌日に特定選手をターゲットにしたことはイヤだが、それとフロントのチー ム運営を支持するかどうかは別問題＞と考えているファンもけっこういるんじゃないかな、と思います。 独自の応援スタイルを築いた功績は誰もが認めるところだけに、なんとも残念というか、複雑という か。 （石井知明） （そういえばもう２年以上前ですが、このときも倉敷さんの素敵な実況でした…） :中日スポーツ: :
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